LA旅行記<前編>

 8月5日木曜日。6月から続く夏休みも今月で最後。5月の終わりから9月の始めまであるアメリカの夏休みは本来とても長いが、来春に卒業するにはあと11個の授業を取らないといけない僕は、今年も忙しい夏学期を履修した。先週物理のクラスを終えたので、今週コンピューターサイエンスのクラスをパスすれば、あとは数学の期末テストを3週間後に残すのみとなる。

 学期の終わりが近づくと、夏が終わらないうちにどこかへ出かけようかと思い巡らす余裕が出てくる。西海岸へ行きたいなあと、前々からルームメイトのPoohさんと話していた夏休み旅行計画もあり、目的地をカリフォルニア・ロサンゼルスへとするのには時間はそれほどかからなかった。お互い2度目のLAでありながら、出発の1週間前からウキウキした気持ちが止まらなかった。

Day 1 

 8月12日木曜日。朝の3時に起きなくてはいけないことをを知りながら、結局昨夜は一睡もできなかった。「遠足の前の日は寝られない」のはどうやら小学生のガキンチョだけではないようだ。早朝なので空港は空いていると思いきや、手荷物検査場には長蛇の列ができていて、世間は夏休みのど真ん中であることを思い出す。パスポートを見せたとき、「写真よりも髭が伸びているが確かに同じ人間だな(笑)」的なジョークを言われ、髭を剃ってこなかったことに気づいた。

 コロナは完全に収束したとはまだ言えないが、皆マスクを着用し旅行に出かけようとしている。これ以上人々の行動を抑え込むことは今更できないだろうし、無理に押さえ込もうとすれば彼らの怒りが爆発してもおかしくない。旅行に行くことでどうかここにいるみんながこれまでの鬱憤を晴らせますようにと願う一方、僕ら観光客はコロナ蔓延のお手伝いさんであることに変わりはない。とにかく、感染対策には十分に気をつけて行ってきたい。

 フライトの離陸時間は6時15分。余裕を持って4時前に家を出たはずだったが、手荷物検査にひっかかったり、朝食にサンドイッチやコーヒーを買ったりしていると、時計の針はすでに6時を回っていた。搭乗口が閉まるギリギリにゲートに着いた僕らは、カウンターにいた女性の方にチンタラしてないで!と叱られるはめに、、、。機内はエアコンが効きまくっていて、5時間のフライトを短パン半袖で過ごすには寒すぎた。アメリカ人のここら辺の体温感覚はいまだに理解できない。

 5時間のフライトを経て、無事ロサンゼルスに到着。最初に驚いたのは、人の明るさと多さ。ボストンの人々が穏やかでクールな傾向にあるとすれば、ロスの人々は活気に溢れ温かみがあるようにも感じられた。東京の人混みに比べればどうってことはないのだが、夏中引きこもりだった僕の目には普段の景色も違って見えた。5時間冷房の真下で冷やされた体が徐々に温められていく。暖かい気候と眩しい太陽が本場の夏を感じさせた。同じ空なのにカリフォルニアの空が広大に見えるのは何故だろう。

 まず向かったのはホテル近くのスタバ。Lyftを利用したが、運転が下手くそすぎてかなり酔った。旅行先でもPoohさんはオンラインでテストを受けるので、WIFiに接続できる場所へ。その間ランチをどこで食べるかを調べていると、ピザにメキシカンにハンバーガー、色々と食べたくなって涎が止まらなくなる。いくつか候補が決まった頃、Poohさんのテストも終わり、スタバを後にした。ホテルへ行く途中にはいくつか古着屋があるので寄ってみた。

ここはセカンドハンド・ショップで有名なRound Twoの右側。左側の建物には主にシューズが置かれていた。

 歩いていると汗をかくくらいには暑い。ボストンにいる時の暑さとは違って、ロスの暑さには嫌気がない。古着屋が数軒立ち並ぶ通りはボストンではなかなかないので、楽しさが暑さを紛らわせたのだろうか。しかし、スーツケースをゴロゴロしているとやはり疲れてきて、ちょうど見つけたメキシカンレストランでお昼を取ることにした。色鮮やかな店内で注文したのはタコスとケサディーヤ。めちゃくちゃ美味しかったけれど、量が少なめで、逆にお腹が空いてしまった。

ケサディーヤとは、トルティーヤの間にチーズなどを挟んで焼いたもの。写真に写っているのはタコス。

 ホテルでチェックインした後、身軽になった僕らは電動スクーターに乗って買い物へと向かった。カリフォルニアにはアプリでレンタルできる電動スクーターが街の至る所に置いてあって、駐輪禁止の場所でなければどこでも好きな場所で乗り降りできる。タイヤが大きいので乗り心地は快適で、街中を駆け抜けるときの向かい風がまた爽快だ。ロサンゼルスの地下鉄は使わない方がいいという噂もあったので、今回の旅行中はこのスクーターが大活躍した。

 初日のプランは特に決めてこなかったが、必ずやりことがひとつある。それは2日目にUniversal Studio へ遊びに行く時のコーデをPoohさんと一緒に決めること。できれば旅行前に買い揃えておきたかったのだが、ボストンではなかなかこれといったものには出会えなかった。当初は綺麗めコーデでシャツにネクタイなんかをしようと企んではいたものの、そのハードルの高さに気づき、前日になってもなおどの方向でいくのか決められずにいる。

 Stussy や Carhartt を3往復ぐらいして散々悩んだ挙句、Stussyで色違いのロンTをゲット。次に向かったのは The Grove というロスの中でも有名なショッピングモール。Uberの運転手が「初めて行くには楽しいところだよ!」と教えてくれた通り、大きな噴水を囲むようにいろんなお店が集まっていてとても雰囲気が良かった。また、近くの駐車場の最上階は見晴らしがよく、東側にロサンゼルス都市部、北側にはHollywoodの文字も見えた。

 Nike に入ってすぐに、Stussy のロンTに合うハーフパンツをゲット。他にも、上下でAir Jordan の シャカシャカに一目惚れして買ってしまった。次に、ZARA で色違いの可愛いソックスを見つけ、片方ずつ交換して履こうということになった。最後に、Davante というお店で 二人ともRay-Ban のサングラスを買った。2、3個の候補から、ああだこうだと言い合いながら似合う方を選びあった。気に入ったものを買えてお互い満足できたお買い物だった。

 綺麗な夕日が差してきた頃、広場ではおじさん音楽団がカントリー音楽の演奏に合わせて合唱していた。通りがけの人達は一緒に歌ったり、踊ったりしていて、あたりは暖かな雰囲気で包まれていた。日本では、立ち止まって見物することはあっても音楽に合わせて踊ったりはしないし、拍手はしても一緒に歌ったりはしない。パフォーマーとビューワーの相互干渉があるという文化に、改めてアメリカらしさを感じた。

 夜はChinese Theatre や Walk of Fame のある Hollywood Blvd (ハリウッド大通り)を散策。途中、屋台からの香ばしい匂いに誘われ、まんまとフレンチフライと照り焼きステーキを買ってしまう。食べ歩きをしていると、急に銃声が聞こえ、前方から通行人が逃げてきた。どうやら数十メートル先のバーで酔った男が暴れているようだった。もうお互いアメリカに来て2年以上が経つのであまり驚きはしないのだが、改めて振り返ると逆に驚かなくなってしまった自分達に驚く。

 Walk of Fame とは、有名なハリウッドスターや映画監督などの名前を星形の枠に収めて歩道に刻んだもので、全部で2500以上の著名人の名前が通りに並んでいる。Chinese Theatre はその通りに面して立つ一際大きな建物で、その入り口の前では、映画ハリー・ポッターで人気になったダニエル・ラドクリフ(ハリー)、ルパート・グリント(ロン)、そしてエマ・ワトソン(ハーマイオニー)の手形と足形を見つけることができる。

Hollywoodに来たら有名人に会えるのではないかと淡い期待を抱くが、そう簡単に遭遇できるもんじゃないよね。

 十分ハリウッドを満喫した後、Uber で Griffith Observatory(グリフィス天文台)へと向かった。しかし、二つある山頂までの道がどちらも閉ざされていて、車では行けそうになかった。時間が遅すぎたのか、コロナの影響なのか、何か特別なイベントでもあったのか、理由はよくわからないが、仕方なく今夜は諦めることにした。ホテルに帰り、買ったものを広げて余韻に浸っていると、あっという間に眠りについた。時差の影響で今日はいつもより3時間も長かったのだ。

Day 2

 さて、2日目はいよいよ Universal Studio の本場へと突撃する。割と近い場所にホテルを取ったので、朝早くに起きる必要もなくゆっくりと寝ることができた。昨日揃えた服を着て用意は万端。今日からは少し動画も撮ってみようかなと思い、DJIのジンバルを持っていくことにした。携帯よりも遥かにいい動画が撮れる DJI Pocket 2 を持っていたのだが、以前雪山で紛失してしまった。あれは今思い出しても悔しすぎる、、、。

 開場時間の9時には間に合わなかったが、まだ入り口はそこまで混んでいなかった。手荷物チェックの時、ジンバルの三脚を怪しまれたが、”It’s for my camera.” というとすんなり通してくれた。まだ朝ごはんを食べていなかったので、とりあえずすぐ近くのカフェに入り、サラダとコーヒーを買って食べた。腹が減っては戦はできぬ。そう、ここからは戦い、少なくとも僕に取っては、乗り物嫌い克服なるかの戦い。

 

なんの象かわからないけど、とりあえず入り口付近でパシャリ。

 Universal Studio Hollywood はUpper Lot と Lower Lot に分かれており、その間を長いエスカレーターが繋いでいる。両方を行ったり来たりするのは時間と体力の無駄なので、僕らはまずUpper Lot から攻め込んでいくことにした。初めに乗ったのは、The Simpsons Ride というやつ。前に並んでいたカップルがそこまでくっつくかというレベルでお互いベタベタしていて、ましてどちらも真夏にしてはかなり厚着だったので見ていてとても暑苦しかった。

 20分くらいの待ち時間だったが、常に列も動いていたことであまり待っている感じもなくアトラクションに乗り込めた。思ったより機械音が大きくて、本当に自分が乗れる乗り物なのか不安になってきた。どんなアトラクションがあるのか僕はそこまで調べてこなかったので、行けるか行けないかのラインは全てPoohさんの反応に頼るしかない。どうやら、このアトラクションは「へっちゃら」らしい。

 ビクビクしながら安全バーを下げたが、終わってみればなんのその。そこまで怖がることはないアトラクションだった。目の前の大きなスクリーンに映し出される映像に合わせて、乗り物が揺れたり傾いたりする。時折落ちるような感覚がちょっぴり怖いくらいだけど、それがこういうアトラクションの面白さなのだろう。乗り物に乗ったのは久しぶりだったので、水をかけられていたことに後から気づくくらいには必死だった。

 次に向かったのは Universal Studio Tour。実際に映画の撮影で使われたスタジオやセットを、バスに乗りながら見て回るUniversal Studio Hollywood ならではのアトラクション。真っ暗な洞窟に入っていくと突然、2頭のティラノサウルスから襲われる。唾をかけられたり、バスが傾いて崖から落ちそうになったり、最後はキングコングが登場して助けてくれる迫力満点のアクティビティ。個人的には、このツアーが一番面白かったので、ハリウッドを訪れた際には忘れずに行ってみて。

 ユニバと言えば、やはり Harry Potter じゃないだろうか。ホグワーツ城からホグズミード村まで、映画の世界がリアルに再現されているハリーポッターのエリアは、Hollywood でも一際人気のようだった。ハリーと一緒に箒に乗れるアトラクションとヒッポグリフのローラーコースター、三本のほうきなど、基本的には日本のユニバと同じだ。僕はバタービールを飲んだことがなかったので初挑戦。最初の一口は美味しかったけれど、後半は甘すぎてギブアップ。

 「エリアの入り口にキングズクロス駅を作って、ホグワーツ城まで機関車に乗って行けるようにしたら面白いのにね」とPoohさんが言う。確かにそのアイデアは良さそうだ。9と3/4番線から発車する機関車があれば、より一層現実世界から魔法界へと引き込まれやすくなるに違いない。もう21歳になってしまったので、あまり子供のようにはしゃぐことはできないが、もし自分に子供ができたら11歳の誕生日が来る前にたくさん連れてきてあげたいなあと思った。

 お昼に差し掛かり、お腹が空いてきた。1時半からWaterWorld のショーがあるので、それまでにランチを食べておけばちょうどいい。Poohさんが気になっていたメキシカンレストランが残念ながら閉店だったので、代わりに別の場所でピザとナチョスを買ってひと休憩。午後になると少しずつ人の数も増えてきて、ユニバらしい本格的な雰囲気が出てきた。乗り物に乗るのも悪くはないが、食べたり飲んだりこの雰囲気を味わう方が楽しいと感じてしまうのは年寄りじみているのだろうか。

 Upper Lot をだいたい攻略し、Lower Lot に向かう。Upper Lot の方が高い場所にあるため、移動中もエスカレーターに乗りながら眺めのいい景色を堪能できる。Upper Lotで大体半分と考えれば、Lower Lotでもう半分。1日だけでは回りきれないのではないかと思っていたユニバも、実はそこまでだだっ広いわけでもなさそうだ。夏休み中でありながら、そこまで混んでいない日に来れたことが功を奏した。

 最難関は Mummy のローラーコースターだった。Poohさんも乗ったことはないらしいが、このアトラクションはきっと面白いとのこと。まだ一度もローラーコースターに乗ったことがない僕は怖くてしょうがないのだが、人生で一度くらいなら乗ってみてもいいんじゃないかと思い、ドキドキしながら列に並んだ。Warning(警告):「このアトラクションは激しく回転したり急降下したり後ろ向きに進んだりします」の看板が余計心臓の鼓動を早めた。

 インストラクターが無事にアトラクションを乗り終えた人たちに拍手を送っているが、それほど怖いということなのだろうか。人生で初めて肩から下ろすタイプの安全バーを装着し、ゆっくりとコースを進んでいく。急に暗闇に突入すると、一気に加速した。視界が全くないので、どれくらい速いのかもどの方角に進んでいるのかもわからない。速さからくる恐怖よりも、この先がどうなっているのかわからないという恐怖心が勝った。

 速さに慣れてきた頃、乗り物が完全に停止し、後ろ向きに動き出した。そういえば、看板に Backward Moving と書いてあった、、、。そしてこのまま、落ちるのか、、、。数秒後の地獄を察し、どうか無事に乗りこえられますようにと目を閉じようとした時、周囲が明るくなり同時に拍手が聞こえ始めた。ん?これは終わったのか、、、?さらに先の恐怖があると身構えていた分、乗り場位置に戻ってきたことがわかると少し拍子抜けした。

 人生で初めてのローラーコースターはこうしてどうにか切り抜けた。それほど落差がなく想像以上に怖くなかったし、Poohさんからしてもやはり物足りなかったようだ。しかし、かといってまた乗りたい!と思えるものでも決してなかった。ロッカーに預けた荷物をとって出口に出ると、目の前にはジュラシックワールドが広がっていた。小さい頃から見ていた映画で大好きなのだが、アトラクションは怖そうなので2人ともチキって乗らなかった。代わりに休憩がてらビールを買って、乾杯!

右手に見える ISLA NU-BAR でビールを買ってみた。アメリカではIPAが人気で、ラガーはあまり見かけない。

 トランスフォーマーやカンフーパンダ、その他もかなり盛りだくさんだったLower Lot を後にして、Upper Lot に舞い戻る。ちょうどそばにミニゲームのエリアがあり、せっかくなのでシューティグゲームをやってみた。計10個のボールが与えられ、30秒以内にどれだけ決められるか、決めた本数によって景品が変わるというミニゲーム。距離は実際のスリーポイントくらいで、リングがやや小さいくらい。30秒あれば3本くらい決められるのではと内心思ってトライしてみた。

 いやいや、バスケを舐めてはいけない。もう2年以上も現役から遠のいている者が、ビールを飲んだ後に屋外の小さなゴールにボールを正確に飛ばすことができるはずもない。最大10本の試投ができたが、9本しか打てず、しかも一本も入らなかった。酷かったのは、全部右にずれているのに、全く修正できずに最後目で全部右ずれだったこと。スラムダンクを読んだ方ならご存知のはず。前後のずれならまだ許されても、左右のずれは下手くそだという証拠なのだ。

 一回$12も払って戦利品なしは何かと寂しい。いくらブランクがあるとはいえ悔しかったので、再挑戦することに。膝を使えていなかったなあと少し反省して、もう$12ドルを支払う。今回はPoohさんも隣のゴールで打つので、流石にPoohさんには負けられないと意気込む。一本目の試投は左右のずれがなくがゴールの根本に当たって外れ、2投目はそこから修正できてやっと一本が決まった。しかしそれで満足してしまったのか、2本目の成功はなかった。

 景品はキャラクターのぬいぐるみだった。Poohさんが欲しがっていたので、プレゼントすることにした。夕方になって流石に疲れてきたので、とりあえず休憩することに。Poohさんはソフトクリームを買って食べていたが、僕は甘いものが苦手なので買わなかった。乗り物もそこまで好きではなく、甘いものも好きではない人間と、一緒にテーマパークに来てくれるPoohさんに感謝だ。チョコとバニラのハーフアンドハーフを一口いただいて、残りのアトラクションへと向かう。

 日が落ちてきたので、そろそろ夕食を食べて帰る時間。最後に入ったのは、ハリーポッターエリアの3本の箒。かぼちゃジュースとステーキリブを注文した。作中ではかぼちゃジュースはめちゃくちゃ美味しくて人気の飲み物という設定だったのでかなり期待していたのだが、想像していたものとは違って残念だった。シナモンが強くて薬の味がするのは日本も同じなのだろうか。ステーキリブは柔らかくてめちゃくちゃ美味しかった。お腹も満たして程よく疲れて、2日目も大満足!

パーク自体は夜の8時で閉まってしまうが、Universal City Walk では閉園後もお土産を買ったりディナーを楽しんだりできる。

 あとはホテルに戻るだけかと思いきや、「あ、昨日行けなかったグリフィス天文台行っとく?」の一言で、もう一大イベントが舞い込んだ。まだ9時なので11時に閉まる天文台にも行こうと思えば行けるのだ。お互い疲れてはいるものの、若気の至りが発動すれば、もうあとは行手を拒むものはない。ホテルでUber を呼び、山頂へと直行した。一本目の道が昨日と同様閉ざされていて暗雲が立ち込んだが、運良く2本目の道から山頂まで行くことができた。2日目はまだまだ終わらない。

 夜も遅い時間帯だったが、週末ということもあり、山頂にはまだ多くの人が残っていた。天文台の建物はライトアップされていて、それは山の麓からでも確認できるくらい明るくそして高い場所にある。周囲が明るいせいか、天文台という割に目視できる星は少なかった。建物の中では展示物の見学や、プラネタリウムの視聴ができたりする。昼間に行った際には、是非ともプラネタリウムを見てみたい。

 夜の夜景は素晴らしかった。最も目立つロサンゼルス・ダウンタウンを筆頭に広大な土地が光り輝いていて、さすがカリフォルニア最大の街という感じだった。絶景を前に写真を撮ったり、ゆっくりおしゃべりをしていると、閉園のアナウンスが聞こえてきた。11時で閉めてしまうには勿体無いように思えるが、深夜に一般開放していたらここでタムロする輩が後を絶たないのも想像できた。もしロサンゼルスに住むことになったら、毎週来たいなあと思えるくらいいい場所だったから。

ロサンゼルスでは日本人との遭遇率も高かったけど、そりゃこんなに広ければいっぱいいるよなあ。

 あれだけたくさんいた人たちが、警察の「早く下山しなさい」のアナウンスに急かされて、瞬く間に少なくなっていく。来るのはなんとかなったが、帰る方法は考えていなかった。みんなどうやって帰るんだろう?途方に暮れているうちに、あたりに人影はなくなっていた。警察から怒られる前に自分から話をしようと車に近づいてみる。「Uberを呼ぶので後15分だけここに居させて下さい」とお願いすると、「俺の知ったこっちゃねえから、帰るぞ」と言ってどこかに行ってしまった。

 しかし、ホテルに戻るためUber を呼ぼうとしたとき、少々やばいことに気づいた。携帯の!電波が!繋がらない!!!!アプリを開いてもクルクルの表示が回るだけで、何も起動しない。さて、どうしたものか。周りにはもう誰もいない。もし、携帯の電波がつながったとしても、警察がふもとのゲートを閉じたのだとすれば、車が山頂まで上ってこれなくなっている可能性もある。とりあえずここにいても埒があかないので、車が通るところまで歩いて下山することに。

 しばらくしてT字路に差し掛かると、カップルらしき若い男女に出会った。彼らもやはりUberのドライバーとコンタクトが取れないらしく、ここで立ち往生していたようだ。このT字路では実際に何台か車が通り過ぎていったので、ドライバーさえ見つかれば車が迎えに来れる場所ではあるはずだが、依然としてUberからのレスポンスはなかった。たびたび通りかかる車はどれも止まる気配すらなく僕らの前を横切った。

 T字路の縁石に座って10分くらいが経った時だろうか。歩いて下山する覚悟を決めたのか、カップルたちが歩いて移動し始めた。これ以上ただ時間が過ぎていくのを待つのも馬鹿なので、僕らも彼らの後をついていくことにした。知らない山道を2人で降りるより、まだ4人でいた方がマシだろう。T字路から100メートルくらい離れたトンネルに入る直前、通りがかりのピックアップトラックが急に停まって、運転手が顔を出した。

 「おい、お前ら、歩いて帰るのか?ここにタクシーは来ないから、パーキングエリアまで送ってやるよ!」優しい運転手のお言葉に甘え、カップルたちと僕らは乗せてもらうことに。歩いて帰るところをこんな形で救われるとは、運が良いとしか言いようがない。「後部座席が満員だから、荷台で我慢してな!」と言われたが、トラックの荷台に乗る経験なんて滅多にないのでむしろワクワクした。トラックの荷台は僕ら4人が座って乗ってもまだ余裕があるほど広かった。

 真っ暗な山道を走るトラックに大人9人、しかもそのうち4人は荷台に座っている。日本ではあまり見られない光景だ。きっと誰も荷台に乗せようとはしないだろうし、そもそもピックアップトラックに乗っている人に出会えない気がする。ここがアメリカで本当に助かった。しばらくして、「パーキングに着いたけど、どうせならふもとのガソリンでスタンドで降ろしてやる方がいいか?」と運転手が窓から身を乗り出して聞いてきた。「Yes please, thank you!!」

 夜の冷たい山風が心地よく顔元を吹き抜けていく。デコボコ道の衝撃が、ほどよく疲れた身体を刺激する。時折通り過ぎていく街路灯は、明るすぎず暗すぎず僕らを照らす。この”ワイルドオープンカー”は、今夜世界で一番情緒的に走った車に違いない。カリフォルニアの夜を全身で感じながらのドライブはこれ以上なくエモかった。この先の人生で、トラックの荷台に乗って山を下ることは、きっともうないだろう。今夜は本当に運が良かった。

 もし今夜山頂で一人だったら、僕はすぐに歩いて降り始めたのではないだろうか。携帯が使えないとわかった時点で、自力で降りる覚悟を決めただろう。僕らが今夜来た下山道はホテルへは遠回りなので、もう一つの道を選んだはずだ。暗い夜道では知らない人には話しかけず、音楽でも聴きながら、ただ黙々と歩いたに違いない。自分のことは自分でどうにかしなきゃと思い込み、困った時に人の力を借りるということを、僕は上手にできない気がする。

 今夜、僕の考えのことごとく正反対を行ったのはPoohさんの選択だった。山頂からはふたつの下山道が伸びていて、僕らが今夜来た道を選んだのは実はPoohさんだった。ホテルへは遠回りではあるが、車がより通るであろう大きい道路の方がいいという判断だったのだろう。その先で見ず知らずのカップルに話しかけたのも、歩き出した彼らに最初について行ったのも、全てPoohさんの行動だった。山を歩いて降りる羽目にならなかったのは、Poohさんがいたからだと思う。

 「他人が自分と同じ状況でどんな選択をするのか」を知ることは難しいけど、友達と行く旅行先など特殊な場面においては、他人の決定に自分の未来を託すこともある。今回はまさしくその特殊な場面で、なんだか他人の人生がどのように進んでいくのかを垣間見えたような気がして不思議な感覚を覚えた。自分では選ばないことをもし選んだ場合、どんな結末が待っているのかを知れたような気がしてとても面白かった。

 僕らの人生には至る所に分岐があって、状況に応じて何かを選ばなくてはいけない。選びようによってはもしかすると僕らは無限の可能性を秘めているのかもしれない。ただ、一度決めたら時は戻らないし、別の選択をした場合の結果を知ることもできない。だから、自分の選択が正解か間違いかを考えるより、自分で決めたことを信じ抜くほかないと、個人的にはずっと思っている。正解がない人生で自分の選択がより正解に近づく唯一の方法は、進むと決めた道で一生懸命になることだろう。

 とまあ、普段は自分の選択に後悔を感じることは少ないが、幸運の持ち主Poohさんが一緒にいた今夜に限っては、無駄に山を降りなくて済むどころか、貴重な経験までさせてもらった。骨折り損のくたびれ儲けという言葉があるが、僕は知らず知らずのうちに、苦しかったり、辛かったり、難しかったりする方を選んでいる気もする。少しはPoohさんのように、自分の選択にプライドを持ちすぎず、フットワーク軽く人生を歩んでいければいいのだが。

 良い悪いは別として、ある意味運任せなPoohさんの生き方は、自分とはただ正反対であることに気づき、今夜はその人生観を少しだけ分けてもらったように感じられた。人生は無数の選択が連なってできているんだなあと思えたし、これまでの無数の選択が今いる自分を作ってきたんだなあとも思った。車に揺られながらそんなことを考えていたので、最後ガソリンスタンドでお礼として運転手に渡した$10は全く惜しくなかった。

Day 3

 怒涛の2日間を過ごしたので、3日目はあえて予定を入れずにのんびりと過ごした。朝の10時くらいに起き、特段慌てることもなく11時のチェックアウトを済ませた。今回泊まったホテル周辺には良い古着屋がたくさんあったので、今日は一昨日回りきれなかったところを見てまわることにした。またスーツケースをゴロゴロさせながら街へと繰り出し、全部で4箇所の古着屋を周り、一枚のTシャツを掘り出した。そしてついに、西海岸ならではの海岸方面へと向かう!

Tシャツを購入したお店の向かいにみえたのは、昨年の一月ヘリコプター事故で亡くなったコービーと次女のジアナさん。ロサンゼルスの至る所でコービーの壁画に出会うが、その度に彼の偉大さを実感する。

 宿代をできるだけ抑えるため旅の序盤では比較的安いホテルに泊まったが、今日からは奮発してお洒落で綺麗なホテルに泊まる。僕らの新しい拠点となるMarina del Rey とは、ヨットやクルーズ船が並ぶ波止場の名前で、付近には高級ホテルやレストランが名を連ねる。有名な観光地であるベニスビーチやサンタモニカビーチへも歩いて行ける距離にありながら、ロサンゼルス国際空港からも近いので、旅後半の拠点にするには格好のエリアだ。

 3時のチェックインまでにはまだ時間があったが、ハリウッド周辺はもう十分散策したので早速ホテルへと移動することにした。1時間弱ほどかかったが、Uberに揺られてうとうととしているとあっという間だった。ホテルのカウンターで早めのチェクインができたので、一旦部屋に荷物を置いてお昼ご飯を食べにいく。ランチといえばバーガー、カリフォルニアでバーガーといえば、もうひとつしかない。

 In-and-Out はカリフォルニア州限定で展開されているバーガーチェーンで、アメリカで知らない人はいないくらい有名だ。僕は高校の修学研修でカリフォルニアに来る前に、英語の先生からその存在を教えてもらった。「いいか、ロサンゼルスに行ったらIn -and-Outには絶対行けよ。違う違う、甘いよ。インアンドアウトじゃなくて、インネナウっ!そんでな、実は裏メニューがあるんだけど、それがまた美味いんだよ。」

この矢印のロゴが懐かしい。修学旅行の時、みんなでバスに乗ってきたなあ。

 4年前に一度行ったきりなので、In -and-Outの味はもうほとんど覚えていないし、おすすめされた裏メニューも挑戦できなかった。なので、In-and-Outへ行くことはもちろん、裏メニューを頼むことは今回の旅行のミッションのひとつだ。ちょうどホテルから歩いて行ける距離に店舗があったので、今日のランチはIn -and-Outで異論なし。事前にググってみると、裏メニューの中でも一際ボリューミーなアニマルスタイルという品を発見。今日はそんな未知のバーガーに挑戦してみたい。

 In -and-Out の店舗前には必ずヤシの木が交差して植えられている。ヤシの木自体はカリフォルニアではよく見かけるが、綺麗にXの字を作るヤシの木のペアはなかなか珍しいので特徴的だ。店舗に入るとちょうど混み合う時間でもあったのか、若い人たちを中心に列ができていた。東海岸のM社やKBでは、ヨレヨレのおじいちゃんやホームレスのおばさんをよく見かけるので必ずしも明るい場所ではないが、ここカリフォルニアのIn-and-Out は学生を中心に若い人たちで賑わっていた。

 お店のメニュー表には3種類のバーガーしか載っていない。コアな顧客になるほど裏メニューに隠されたIn-and-Outの真髄を知ることができる、という企業戦略なのだろうか。早速「アニマルスタイルバーガーをひとつと、、ポテトを、」と注文すると、「ここではアニマルスタイルはやってないんだ。1か2、3の番号の中から選んでくれ」と言われた。もしかしたら、裏メニューはどの店舗でも受け付けてくれるものではないのかもしれない。

 結局、普通のダブルチーズバーガー(だっけ?)とポテトを注文した。もちろん味はとてもよかったし、ボストンにもお店を作って欲しいなあと思った。あっという間に食べ終えてしまったので、バーガーをもう一つくらい頼めばよかったと後悔する。もう一度オーダーのカウンターへ並びたい欲を抑えながら、冷房が効いて快適なお店のドアを開け、電動スクーターを探す旅に出た。あと4日もあればきっとまた来れるはず、、、(涎)。

 レンタルスクーター専用アプリを開くと、周辺付近で利用可能なスクータの位置情報を見ることができる。早速アプリを開いてみたが、一番近くにあるスクーターは数百メートル先にあるようだった。Poohさんは別のアプリを利用していたのですぐに見つかった。一足先にスクーターに乗ったPoohさんに若干置いていかれながら、僕はその数百メートルを走った。普段全く運動しなくなってしまったので、衰え続ける自分の体が少し怖くなった。継続して運動、、、(汗)。

This is one of the most iconic logo of Venice exposed on Pacific Avenue!

 向かう先はベニスビーチ。ハンバーガー屋さんから西に向かって一直線に道路を走ると海沿いへと出る。日本の海のように潮の香りを感じたりはしなかったが、海の近くの雰囲気は海街そのものだった。いつの間にかレストランやお土産屋さんの連なりが途絶れ、砂浜の先に水色に近い青い海が広がっていた。ボストンには本格的なビーチがないので、久しくこんなに綺麗な海を見ていない。そうだ、僕らはカリフォルニアに来たんだ、、、。( 続く)

 

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